はじめに。「このブログでの蓄積+従来からの問題意識をベースにエッセー執筆!」と掲げてきたところ、初めて書きたいテーマが見つかった。私の人間観である。人間は最も脳/心の働きを高度/複雑に進化させてきた動物だ。①このエッセ-およびその続編で「人間とは何か」「人間の脳/心の本質は何か」についてまとめ、②次のエッセーで現代社会を分析し、結果として、③現代社会に生きる人間に指針/留意点を明確にしたい。(方法論)アカデミック界でも諸説多くある分野で、フィールドワークをしない私ができることは、見聞きした話のうち、私が腹落ちした事項をつなげて妥当感/納得感のある説をつくることだ。なお、人類学や脳科学だけでなく、人工知能/AIを開発しようとする人々からの発信も参考にした/したい。
人類史概観。人間は学名がホモサピエンス/Homo Sapiensという生物種で、正確に言うと、動物界-脊椎動物門-哺乳綱-霊長目(サルを含む)-ヒト科-ヒト属-ヒト種。(アフリカの乾燥化に伴い、森林の縮小・サバンナの拡大を背景に森林生活からサバンナでの生活へ、生活環境を変えざるを得なかった→)600万年前にアフリカでチンパンジーから分岐したヒト科動物(←2000万年前にテナガザルと分岐し、1500万年前にオラウータンと分岐し、900万年前にゴリラと分岐した)が進化を続け、250万年前ヒト属が現れ(→アフリカを出たものもあったが絶滅)、20万年前にアフリカでヒト種/ホモサピエンスが出現した(→10万年前から全世界に拡散)。ヒト科-ヒト属-ヒト種は、脳/心の働きを高度/複雑に進化させ食物連鎖を勝ち抜き、ネアンデルタール人絶滅後/弓矢の発明後1.3万年前に食物連鎖の絶対的な頂点(食うか食われるか・狩るか狩られるかの世界から脱出。世界人口500万人)に立ち、1.2万年前に狩猟採集生活から農耕定住生活に移りその勢いを加速させ、500年前からの科学革命で更に加速度的に文明を築き上げて現在に至っている。人口をベースに語れば以下の通り。狩猟採集時代に人間は、各種道具の開発で、食用可能範囲とカロリー摂取効率を高めて、生き残りを図ったが、人口支持力増大には限界があった。農耕の始まりとともに定住生活が始まり、生存基盤が拡充され人口が飛躍的に増た。古代文明が成立すると、社会階層が生じ、食料生産に関わらない人や都市が出現し、さらに都市が結びついて帝国が生まれた。ただ、人口は疫病・戦争で調節された。人口増加曲線は科学革命を経て産業革命以降に急カーブを描き今日の人口爆発に至った(世界人口は18世紀後半/産業革命前夜で7-8億人。現在80億人)。「ホモサピエンスが食物連鎖の絶対的頂点1.3万年間」÷「ヒト属の歴史250万年間」=0.52%≒7分間in1日24時間。(通常、生物の進化は、かなり長時間をかけて起こるが)この文明の垂直的な発達は、人類史を1日とするとほんの数分間の出来事でなので、進化が追いつけるわけがなく、人間の心身は、ほぼ狩猟採集(食うか食われるか・狩るか狩られるかの)生活(農耕生活の200倍超の期間)の時のままである。
地球環境。横道にそれるが、生物に大きな影響を与えてきた地球環境を概観。温暖期と寒冷期は、約10万年毎に繰り返し訪れており(前回の寒冷期入りはホモサピエンスの全世界拡散と重なる。海水面が下がり寒冷地の大型肉食動物を求めて出アフリカ?)、地球が現在のような温暖で海水面が安定した環境になってから、約2万年経過(ただし、約1.2万年前後の約1千年間、寒冷化した時期があった。その後、農耕が加速?)。それ以前の数万年は寒冷期で、平均気温は現在より5度も低く、海面は100mも低かった。
人間と脳の関係。脳の重さは、サルが総じて400gであるのに対して、人間(ホモサピエンス)の成人では1200-1500g(60万年前に到達)。これこそ進化の原動力だ。600万年前に森林生活からサバンナでの生活になり、2足歩行で手が使えるようになり道具の使用が可能になるとともに物理的に脳を大きくしやすくなった(ハード要因)。その後、250万年前に現れたヒト属は、180-80万年前から火を利用するようになった。火のひとつの利用方法が調理で、加熱して胃腸への負担の少ない形で食事ができるようになり、脳によりエネルギーが使えるようになった(ソフト要因)。(また、火食により消化器官が小さくなり主直2足歩行が完成したとも言われる。)このハード+ソフト要因で増強されやすくなった脳を使って記憶力や想像力(下記①②③④)がアップし、増大した想像活動がさらに脳を大きくした。自明の理ながら、動物の大前提は、食・寝・性、つまり、個体として長く生きて子孫を残すこと(生存&生殖)。動物は、食うか食われるか・狩るか狩られるかの世界において、これを、より確実に行うように進化してきた。
脳の使い道。①「過去」をより多く記憶できるようになり、加えて「未来」を想像できるようになった。「過去」-「現在」-「未来」とつなぐ中で時間の概念を得て、さらに、自らが死ぬことを認識した。なお、人間以外の動物は「現在」しかない(=自己の死の認識は無い)。②共同生活する他者の心を想像できるようになり、コミュニケーション能力が格段に増し、最大150人レベル※のチームワーク/共感力を可能にした。具体例で言うと、狩りに行く時、自分には仲間が何人いて、いくつ持って帰ってほしいと期待されているかを想像できるようになった。また、母子関係でも似たようなことが起こった。サルは毛深く、赤ちゃんサルは常に母ザルにつかまっている/まることができる。脳が大きくなって他の動物比早産で生まれるようになった人間の赤ちゃんは自力である程度動けるようになるには約1年も要し、加えて赤ちゃんサルのように毛のない母親につかまることもできない。その結果、人間の母子は、物理的に離れることが多くなり、その環境下、双方が双方の心を想像するようになった。言い換えれば、物理的/身体的な感覚だけでなく脳/言葉で他者とつながれるようになった。そして、それが音楽・言語・文字の発明につながっていった。この進展は、一面で自他区分を通じて自己意識・自我の確立につながった。なお、人間以外の動物に厳密な/「深い」自己意識・自我はない(高度霊長類にはあるとする学説はあるし、その他の動物でも広義の/「浅い」自己意識はあるも言われているが、人間のそれは「任意の1点ではなく、円の中心でそれ以外の一切の点と質的に異なった特異点」のイメージの自己意識・自我)。③より安全で便利な生活を想像して、その実現のために道具に工夫を重ねた。結果として、石器、縫い針、木船、土器、釣り針、車輪、弓矢、紙など、さまざまな道具を考案した。④目に見えないコンセプト/概念を想像できるようになり、向上したコミュニケーション能力でコミュニティー内で共有した(7万年前に起こったとされる認知革命)。神話・宗教、国、貨幣などだ。有史前ホモサピエンスは、最大150人※のコミュニティーで生活していたが、この認知革命のおかげで(特に貨幣の力は強大で)、はるかに大きな集団が形成されるようになった。
※ 脳の容量が500ccの時代の集団の最大サイズは15人。150万年前には脳の容量が600ccに増えたので、30-50人の集団に。そして60万年前に脳の容量は1500ccに達し、人間は最大150人の集団を形成可能に。この頃から現代に至るまで脳の容量は変わっておらず、今の人間も実は「150人の集団」のための脳しか持ち合わせていない。
想像力。ヒト科-ヒト属-ヒト種とサル(←目の前の世界に生きている)の違いは、想像力。想像力とは「そこに無いものを知覚する能力」のこと。これが人間を人間たらしめてたと言える。人間はこの力を使うことで、前述の通り、未来、時間概念、自己の将来の死、他者の心⇔自己意識・自我(この2つはセットで獲得したと思われる)、より安全で便利な生活、各種抽象概念を理解できるようになった。人類史を概観すれば、この想像力の増大が1.3万年前に臨界点に達して(行動力の源にあるのは想像力の蓄積)、それ以降の垂直的な文明の発展につながったと言える。それは、個人生活にたたえると、マザーテレサの「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから」のような感じで「想像力→思考→言葉→行動→習慣/文明→性格/文化→運命/歴史」とつながっていったと考えられる。
リスク感覚と集団。想像力が行動を通じて創造力になり、結果として生活環境がどんどん変わっていく中、1.3万年程度の短期間では変わらないものが、狩猟採集(食うか食われるか・狩るか狩られるかの)生活の時のリスク感覚と「150人の集団(食物の蓄積が限定的であり、結果として「学級委員長」はいるがその場での分け与えが基本の平等な集団)」での生活感覚である。我々は、現代において、リスクが想定より相当程度低いが、規模が想定より相当程度大きな社会に住んでいる。また、大きな組織につきもののヒエラルキーも脳にとってはなじみの薄いものかもしれない。有史前ホモサピエンスは、最大150人のコミュニティーで生活していたが、認知革命のおかげで(特に貨幣の力は強大で)、この壁を破りより大きな集団が形成されるようになった。加えて、1.2万年前に起こった狩猟採集生活→農耕生活で食物/カロリーが安定的に増産され、科学革命を経て現在の地球規模の80億人コミュニティーが出来上がった。なお、人間以外の動物はDNAに埋め込まれたプログラムで生存・生殖に関わる「群れ」は作るが、(後天的に得た)目的・意志を持って集団を作ることはない。
あとがき。「ホモサピエンスが食物連鎖の絶対的頂点1.3万年間」÷「ヒト属の歴史250万年間」=0.52%≒7分間in1日24時間、「脳の重さは、サルが総じて400gであるのに対して、人間(ホモサピエンス)の成人では1200-1500g(60万年前に到達)」、「1.2万年前の農耕定住生活時の世界人口500万人、産業革命前夜で7-8億人、現在80億人」の持つ意味(人間を考えるベース)を自分なりに表現できたと思う。(完)