ブッダ・大乗仏教

ブッダが生きていた紀元前5世紀頃、文字は存在していたが、ごく限定的な使用にとどまり、社会全体には広く普及していなかった。ブッダの教えも当初は口伝によって伝えられ、記録媒体としての文字は使われていなかった。文字による仏典の記録が始まるのは、数世代後の時代である。ブッダの時代の知の主流は依然として「物語文化」だった(抽象概念をそのまま語っても理解できない社会状況だった)。また、ブッダ自身も教えを伝える際に、たとえ話やエピソードを多用した。これは民衆の理解を助けるためでもあり、また記憶に残りやすい語りの工夫でもあった。口承に頼る文化では、「記憶に残るかどうか」が何より大切で、語順、繰り返し、音韻、物語構造などが重視された。文字文化では抽象的に「○○とは××である」と定義できるが、物語文化では「感じさせる」「思い浮かばせる」ことで理解させるしかない。だからこそ、ブッダの教えは「正確に定義する」のではなく、「実感として理解し、実践に移す」ことを重視した(仏教は知識ではなく体験知)。「空」「無我」「無」「縁起」といった深遠な教えは、抽象性の高い内容を物語文化の中で体感的に伝える工夫を通じて初めて、人々の心に届いた。その後、教義が整理され、体系化され、文字によって書き留められていく過程で、仏教は徐々に「哲学」や「思想」としても発展した。

「空(śūnyatā)」= 固定実体の否定。。。「空」は後代の大乗仏教で展開される概念ながら、種子はブッダの時代からある。「空」の本質は、「すべての存在は独立して存在せず、条件によって成り立つ」というもの。物語文化ではこれを例えば「車のたとえ」や「ろうそくの火」「泡」「幻」の比喩で伝えた。「馬車は車輪や軸などが集まっているだけで、それ自体に『馬車という実体』はない」というような話。

「無我(anattā)」= 固定された自己の否定。。。ブッダの最も根本的な教えのひとつ。人々が「これが私だ」と思っている身体、感覚、思考などはすべて一時的で変化するものだと説いた。これも「五蘊(ごうん)は私ではない」というような講話形式で語られたり、「刀で切っても見つからない自我」といった譬え話で伝えられた。

「無(absence)」= 実体・執着の消失。。。「無」は否定ではなく、むしろ「偏った実体視を離れること」。物語文化では、例えば「盲人が象を触る話」や「宝の山に執着して足を止める旅人」のような形で、執着が苦を生むこととして描かれた。

「縁起(pratītya-samutpāda)」= 条件による存在・因果連関
ブッダの核心教義の一つ。「これがあるから、あれがある」。。。極めて論理的ながらが、物語的にも語られた。 芽が出るのは種と水と土と日光があってこそ等。苦しみは「無知」「欲望」「執着」が生む因果連鎖の結果。このようにして「因果の網」の中に自分の苦しみを位置づけさせ、自らの行動を見直す契機にするための語り方がされた。

大乗仏教は「物語文化の深み」と「文字文化の広がり」を両立させ、二つの文化の融合によって「広く深い宗教」として発展した。大乗仏教が登場したのは紀元前1世紀~紀元1世紀頃。この頃、インドでは文字が社会的に定着し始めていた。つまり、大乗仏教は「口伝・物語文化の伝統を受け継ぎつつ、文字によって思想を展開できる知的環境」を背景に誕生したと言える。大乗経典には、壮大なスケールの物語的構成が多く見られる。これは、識字率がまだ高くない時代に、聴衆に聞かせて覚えさせるための工夫としての側面を持つ。釈迦一人を中心に据えていた初期仏教に対して、大乗では多くの「菩薩」が登場。観音菩薩、文殊菩薩、地蔵菩薩など、個性豊かでドラマ性のあるキャラクターたちが人々に語り継がれる物語の主人公となった。これにより、民衆にとって仏教がより「親しみやすく、祈りの対象として機能する宗教」に変化した。一方で、文字文化の力で思想が体系化・拡張された。 大乗仏教では『中論』などを代表とする高度に哲学化された教義が生まれた。これは、文字が普及し、教義を論理的・抽象的に整理できる知的基盤が整ったことを反映している。口伝では難しい抽象概念(たとえば「空とは自性の否定」など)も、文字によって整理・伝達・議論が可能になった。大乗仏典は膨大な量があり、内容も多様で重層的。これは文字による記録と写経の技術の発展なしには成立しえない文化。同時に、寺院を中心とした写経や読経の実践が、仏教信仰の基盤として社会に根付いてった。さらに、大乗仏教は中国を経て東アジアへ伝播し、文字による翻訳(漢訳)が決定的な役割を果たす。中国では仏教教義が儒教・道教と交わりながら再解釈される一方、物語的な仏教(観音信仰や地蔵信仰など)も民衆に浸透した。日本でも、文字によって教義が書き残される一方、「地獄草子」「絵巻物」などで物語としての仏教が大衆化した。

【今日の1日】曇。5時半起床。家事一般。情報by新聞・TV。サイト運営。SNS受発信。朝食。庭整備。ゴミ捨て-ガソリンスタンド-昼食-ホームセンター-ジム-買物。阪神タイガース観戦。大相撲観戦。夕食。就寝。(一言)阪神、あと一歩。

【INPUT】(日経新聞) (WSJ) (YouTube)(読書)言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか by 今井むつみ・秋田喜美

【OUTPUT】マンダラチャート維持

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です