まえがき 人生は、いつから重くなったのだろうか
人生は、いつからこんなに重くなったのだろうか。忙しさや責任が増えたからなのか。年齢を重ねたからなのか。それとも、自分の力が落ちたからなのか。
私は長い間、その理由を自分の中に探してきた。もっと頑張ればいい。考え方を変えればいい。気持ちの持ちようの問題だ。そうやって、思考で状況を押し切ろうとしてきた。
だが、あるところで行き詰まった。50才代に入り、加齢の影響もあったのかもしれない。考えても、努力しても、人生の手応えが戻ってこない。何かがずれている。そう感じながらも、その正体が分からないまま、日々だけが過ぎていった。
本書は、「人生をどう良くするか」を書いた本ではない。また、「後半の人生をどう成功させるか」を語る本でもない。この本で扱うのは、人生を動かしている自己の内側と外側の主要な要素を、今一度見直し、それらをどのように配置し、どう扱い直すかという問いである。
人生が重くなる原因は、意志の弱さや努力不足ではなく、人生を動かしている「仕組み」が、いつの間にか自分に合わなくなっていることにある。それにもかかわらず、私は慣性に任せ、長いあいだ同じ回し方を続けようとしてきた。
私は還暦を迎え、仕事という主軸を手放した。そこで初めて、人生が急に静かになる瞬間を経験した。止まったからこそ、それまで何が回っていたのかが見えた。
予定が入り、役割が与えられ、評価が返ってくる。その流れに身を預けている限り、深く考えなくても一日は終わる。私はサラリーマン時代、そうした流れそのものを、人生だと思い込んでいた。だが、その「人生を回している感」は錯覚だった。回していたつもりで、回されていたのだ。世界が自分を中心に回っているという天動説ではなく、実際には、自分自身が仕組みのまわりを回っているという地動説だった。つまりそれは、世界観の違いではなく、人生の主語がどこに置かれていたかの問題だった。
本書は、三つの段階で構成されている。第一部では、自己の内側を見直す。顕在意識と潜在意識、身体と睡眠、余白と疲労。人生を立て直すとは、気合や思考で押し切ることではなく、安心できる状態を整えることなのだと確認していく。第二部では、世界――自己の外側――を読み替える。言語、人類史、会社、資本主義、お金、情報、宗教。それらは敵でも正解でもなく、距離の取り方次第で、人生への影響が大きく変わる要素である。第三部では、生活OSという形で、それらすべてを日常生活の設計へと落とし込む。人生を変えようとしなくていい。人生が自然に回る構造を作り直していく。
この本に、劇的な方法は書いていない。覚悟を求めることも、決断を迫ることもない。あるのは、「もう少し楽に回すことはできないか」「壊さずに続ける方法はないか」という問いだけである。もし今、どこかに違和感を抱えながらも、まだ言葉にできていないものがあるとすれば、この本は、その違和感に輪郭を与えるかもしれない。人生は、思っているより長い。同時に、思っているより繊細でもある。だからこそ、これから必要なのは、正しさや成功といった抽象概念ではなく、気づきと丁寧な扱いなのだと思う。
この「人生の取扱説明を、地に足をつけて書き換える」ための本が、あなた自身の人生を扱い直すための、ひとつの参照点になれば幸いである。
第Ⅰ部|内側を立て直す(自己)・・・潜在意識/顕在意識<OS理論>、身体・睡眠・余白、卒サラ後3年間<実体験>の再設計。
第Ⅱ部|世界を読み替える(世界)・・・人類史<理論>、言語、資本主義・会社・宗教、情報社会・お金。
第Ⅲ部|生活OS・実践編(接続)・・・内側の整え方 × 世界との距離感が、日常生活・生活OS<再現可能な設計思想>の一点で交差。「これは私の設計図です。合う部品だけ、使ってください。」
― 人生を静かに回し続けるために ―
第1章|前提条件⓪:経済を“主役席”から降ろす・・・貧すれば鈍するライン、安心域の設計。
第2章|時間OS:潜在意識が安心する一日のリズム・・・睡眠・起床後、思考と感覚の主従反転。
第3章|空間OS:身体が落ち着く場所の作り方・・・都市と自然、住まい・動線。
第4章|情報OS:刺激を減らす設計・・・見ない自由、比較を起動させない。
第5章|関係OS:役割から距離を取る人間関係・・・夫婦、仕事後の他者。
第6章|余白OS:何もしない時間の意味・・・生産性からの離脱、潜在意識の回復。
終章|人生の「結」をどう回すか
― 拡大しない、静かに続ける ―
人生を「静かに回し続ける」ということ。
私は還暦の頃、人生はいつまでも「前に進み続けるもの」「拡大し続けるもの」ではない、と考えるようになった。むしろ、ある地点から先は、いかに崩さず、いかに静かに回し続けるかを、人生の最上位に置くべきなのではないか――そう思うようになった。
若い頃、私の関心は、人生を加速させること、拡大することにほぼ集約されていた。成果を出すこと、評価されること、役割を広げること。そのために、時間を詰め、思考を回し、無理を重ねることを、当然のように受け入れてきた。人生はそれで回っていたし、回せているつもりでもいた。
だが卒サラ@還暦を迎え、仕事という主軸を手放したとき、私は初めてはっきりと気づいた。予定が入り、役割が与えられ、評価が返ってくる。その流れに身を預けている限り、深く考えなくても一日は終わる。私はサラリーマン時代、何となく感じる「浅さ」に、かすかな違和感を覚えつつも、そうした流れそのものを、人生だと思い込んでいた――いや、思い込もうとしていた。だが、その「人生を回している感」は錯覚だった。回していたつもりで、回されていたのだ。世界が自分を中心に回っているという天動説ではなく、実際には、自分自身が仕組みのまわりを回っているという地動説だった。つまりそれは、世界観の違いではなく、主語が自分から仕組みにすり替わっていたという問題だった。
本書では、三つの段階を通って、人生を読み替えてきた。第一部では、自己の内側を扱った。顕在意識と潜在意識、身体と睡眠、余白と疲労。自己を立て直す、あるいは取り戻すとは、気合や思考で押し切ることではなく、安心できる状態を整えることなのだと確認してきた。第二部では、世界――すなわち自己の外側――を読み替えた。言語、人類史、会社、資本主義、お金、情報、宗教。それらは敵でも正解でもなく、どう向き合い、どの距離に置くかが重要であることを見てきた。そして第三部では、生活OS――〈時空+身体〉〈INPUT・OUTPUT〉〈外部接続〉――という枠組みを用いて、人生を動かしている自己の内側と外側の主要な要素を、日常生活の設計へと落とし込んだ。
ここまで来て、ようやく言えることがある。人生を安定して回し続けるために必要なのは、大上段に構えた大きな目標でも、強い意志でも、自己変革でもない。必要なのは、狩猟採集脳(進化OS)を不安にさせない経済の前提、潜在意識が落ち着く時間のリズム、身体が安心する空間、刺激を入れすぎない情報との距離、役割から自由な人間関係、そして、何もしない余白。こうした、地に足の着いた日常生活の小さな設計の積み重ねである。それらが整ったとき、人生は自然に回り始める。
実際、生活OSを作り込んだ後、私の場合、毎朝、夢がほとんど記憶に残らない熟睡の後に目を覚ますと、新たな問いやアイディア、構想が、自然と頭に浮かぶようになった。ベッドの中でそれを静かに受け取り、午前中はそれを深掘りし、午後は身体を動かしながら創造的に実践する。夕刻以降は、疲れた顕在意識や言語のモードを後方に下げ、潜在意識や感覚のモードを、そっと前面に出す。そうした一日の積み重ねの中で、私は、人生を生き生きと味わうという感覚を取り戻した。サラリーマン時代に、何となく感じていた「浅さ」を、ようやく突き抜けることができたのだと思う。
努力して回す必要はない。押さなくても、引っ張らなくても、人生は止まらずに、無理なく回り続ける。私は、人生の「結」を、意識的に何かを成し遂げる時間だとは考えていない。拡大する時期でも、証明する時期でもない。人生の結とは、壊さず、静かに、円滑に続けるフェーズなのだと思う。「結果」という言葉は使いたくないが、そのようなものは、必要なときに、勝手についてくる。
そのために求められるのは、「もっと頑張ること」ではなく、逆説的だが、「もう頑張らなくていい構造を作ること」そして、その構造を安定的に運営し、適切な状態を保つことだった。人生後半をどう生きるかではない。自己の内側と外側の主要な要素を、どう扱い直すか。そう発想を切り替え、生活OSを作り込めば、できる。
少なくとも、私はできた。発想転換には一定の時間が必要だったが、それに成功すれば、その後の作業は比較的静かで、確かなものだった。
この本で紹介した考え方や設計は、誰にとっても正解というわけではない。だがもし、ずっと疲れている。考えても答えが出ない。人生の回し方を変えたい。そう感じているなら、この本の中から、一つだけ拾ってほしい。睡眠の扱い方でもいい。情報との距離でもいい。お金の位置づけでもいい。人生は、一度に変える必要はない。
生活OSは、少しずつ書き換えればいい。人生は、思っているより長い。同時に、思っているより繊細でもある。だからこそ、これからの人生に必要なのは、正しさでも、意味でも、成功でもなく、静かに回り続けるための「設計」なのだと思う。もしこの本が、あなたの人生をほんの少しだけ「静かに」「楽に」「自然に」回す助けになったなら、それ以上のことは望まない。もう十分に頑張ってきた。
これからは、回し続ければそれでいい。
【今日の1日】晴。5時起床。家事一般。情報by新聞・TV。サイト運営。SNS受発信。オイルうがい+白湯+朝ヨガ。朝食。元旦的過ごし方。昼食。執筆。夕食。就寝。(一言)2026年開始!
【INPUT】(日経新聞) (WSJ) (YouTube)(読書)心配事の9割は起こらない 枡野俊明
【OUTPUT】マンダラチャート維持
