故郷への旅路

卒サラ後の私は、不思議な旅をしてきたように思う。最初から目的地が見えていたわけではない。人間について本を書こうと思っていたわけでもない。ましてや、「人間の設計思想」などという大きなテーマにたどり着くとは想像していなかった。

始まりは、ただの違和感だった。自由な時間は増えた。お金の不安も大きくない。健康にも気を配っている。それなのに、どこか落ち着かない。何かが足りない。しかし、その「何か」が分からなかった。私は答えを探していたわけではない。ただ、自分自身の生活と自分自身を観察していたのである。何をすると気分が良くなるのか。どのような環境で落ち着くのか。なぜ自然の中では安心するのか。なぜ人とのつながりが大切なのか。なぜ余白の時間に心がほどけるのか。そうした小さな観察を積み重ねるうちに、私は少しずつ人間という存在を別の角度から見るようになった。その過程で見えてきたのが、「安心」というテーマだった。人間は安心を求める生命体である。安心は怠惰の反対ではない。むしろ安心は、余裕を生み、好奇心を生み、挑戦する力を生み出す。そして、その安心を支えているのが生活だった。睡眠。食事。運動。時間の使い方。空間との関係。人との関係。自然との接触。私はそれらを「生活OS」と呼んだ。生活OSは状態を整える。整った状態は自然な意欲を生み出す。意欲は行動を生み出す。行動は成果を生み出す。つまり、人間の設計思想 → 安心 → 生活OS → 状態 → 意欲 → 行動 → 成果、という流れである。卒サラ後の私は、この流れを頭で考えたのではない。生活の中で少しずつ発見していった。

しかし今振り返ると、私が発見したと思っていたものは、本当に新しいものだったのだろうかとも思う。本書執筆中、妻との会話の中で興味深い気づきがあった。妻は京都府福知山の農村部で三世代同居の環境の中で育った。神棚や仏壇があり、祭りがあり、墓参りがあり、法事があり、人とのつながりが日常の中にあった。私が「文明と身体のギャップ」について話した時、妻はあまりピンとこないと言った。そして、「もしそのようなギャップがあったとしても、それを埋める回路が生活の中にあったのかもしれない」と語った。私はその言葉に深く考えさせられた。

私は長い間、人間はつながりを失ったのだと思っていた。しかし今は少し違う見方をしている。失ったのではない。分室化したのである。かつての共同体には、仕事も、子育ても、祭りも、祈りも、介護も、死も含まれていた。生活そのものが一つの空間の中にあった。私はそれを「ワンルーム」と呼んできた。ところが文明は発展し、人類は驚くほど遠くまで来た。仕事は仕事室へ。家庭は家庭室へ。趣味は趣味室へ。SNSはSNS室へ。癒しは癒し室へ。私たちは便利さと引き換えに、一つだった世界を分室化してきたのである。もちろん、そのおかげで自由を手に入れた。しかし同時に、共同体の中にいることで自然に得られていた安心感は見えにくくなった。だから現代人は、コミュニティを探す。サークルを作る。オンラインでつながる。本当に求めているのは仲間そのものではないのかもしれない。その奥にある、「共同体の中にいる安心感」なのである。もし人間の設計思想が安心を求めているのだとすれば、それは極めて自然なことなのだろう。

私が卒サラ後に再発見しようとしていたものを、昔の人々は生活の中に自然に織り込んでいたのかもしれない。共同体。祭り。祈り。季節の行事。祖先とのつながり。自然との関係。それらは単なる文化や慣習ではなかった。人間という生命体が安心して生きるために、長い時間をかけて育まれてきた知恵だったのかもしれない。

もしそうだとすれば、本書で述べてきたことは新しい理論ではない。文明化の過程で見えにくくなったものを、もう一度見つめ直す試みなのである。私は答えを見つけたわけではない。ただ、自分なりの地図を見つけただけである。その地図を手にして振り返ると、少し不思議な気持ちになる。私は新しい大陸を発見したと思っていた。しかし、そこは故郷だったのかもしれない。そして私は、自分を海から切り離された波だと思っていたのかもしれない。文明によって私たちは遠くまで来た。その旅は人類に豊かさと自由をもたらした。しかしその一方で、私たちは身体の声や生活の土台や共同体の安心感から少しずつ離れてきたのかもしれない。

(だから本書は、前へ進むための本であると同時に、少しだけ後ろを振り返る本でもある。戻るためではない。思い出すためである。もしこの本が、読者の皆さんにとって、ご自身の身体や生活や人とのつながりを見つめ直す小さなきっかけになったなら、著者としてこれ以上の喜びはない。)

【今日の1日】晴。5時起床。家事一般。情報by新聞・TV。サイト運営。SNS受発信。オイルうがい+白湯+朝ヨガ。朝食。観光。アフタヌーンティ。休息。阪神タイガース観戦。夕食。就寝。(一言) 

【INPUT】(日経新聞) (WSJ) (YouTube)(読書)「卒サラ@還暦 物語-自己・人間・世界を再解釈してみた」ドラフト

【OUTPUT】マンダラチャート維持

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