人間は生物OSを人間OSで上書きした。
生物の基本テーマは、生存(弱肉強食)と生殖(子孫を残す)である。言い換えれば、暴力と性だ。人類もその例外ではない。しかし、人類は、他の動物とは異なる道に踏み出した。分岐点は、森からサバンナへと進出した際、個体間の「協力」を軸に生き残る道を選んだことにある。その後、直立二足歩行が可能にした脳の拡大によって育児期間が長くなり、男女ペアの結束は長期化した。さらに育児期間の長期化は共同保育の必要性を高め、その結束は男女ペアの枠を超えて共同体へと広がっていった。つまり人類は、生物として根源的な暴力と性を管理する仕組みを発達させ、暴力と性を共同体の内部では抑制するという戦略を選んだ。その結果、他の生物には見られないレベルで、共同体内での「協力」と「信頼」を育てていったのである。さらに約40万年前、人類は火を使うようになる。火は夜の暗闇を照らし、捕食される危険を減らし、夜にも「安心」して集える空間を生み出した。火は、人類に安心を与えた最初の文明装置だったとも言える。火の周りで人々は安心して時間を共有し、協力と信頼はさらに深まっていった。また火の使用は、安全の確保だけでなく調理を可能にした。食物の消化効率が大きく高まったことで、消化器官は小さくなり、その余剰エネルギーを巨大な脳の維持に回せるようになった。こうして形成されたのが、人類特有の「社会脳」である。社会脳とは、暴力と性が暴走しないよう管理しながら、共同体内で「協力・安心・信頼」を維持するための脳である。人類が他の生物と決定的に異なる存在となった背景には、この協力・安心・信頼の拡張があった。また、その結果、生物としての「警戒モード」の必要性は低下し、その余力が「探索モード」へと向けられるようになった。ここに、人類の知的探究や文化の発展を支える基盤が生まれたのである。
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