完結と循環

最近、妻との暮らしを見ていて、ひとつ面白いことに気づいた。家事を、ひとりで最初から最後まで完結することが少なくなってきた。たとえば、私があることを少しやる。それを見た妻が、その続きを少し進める。しばらくして私がそれに気づき、さらに少し進める。どちらかが「これは私の仕事」と引き受け、最初から最後までやり切るわけではない。仕事が二人の間を行ったり来たりしながら、いつの間にか前へ進んでいる。

考えてみれば、若いころはもっと「完結」を意識していたように思う。これは自分の仕事。これは妻の仕事。始めた人が最後までやる。会社員生活では、それがさらに明確だった。課題を設定する。
担当者を決める。期限を決める。実行する。完了する。「誰がやるのか」「いつまでに終えるのか」「完了したのか」が重要になる。これは文明にとって、とても優れた仕組みなのだろう。大勢の人間が協力して複雑なことを成し遂げるためには、現実を課題として切り出し、担当を決め、始点と終点を設定する必要がある。私はこれを「文明OS」と呼んでいる。

ところが、生き物の世界を眺めてみると、「完結」というものは意外に少ない。食べても、また腹が減る。眠っても、また眠くなる。部屋を掃除しても、また埃がたまる。身体を鍛えても、放っておけば衰える。人間関係も、一度良い関係を作れば完成、というものではない。生命はどうやら、「開始→処理→完了」という直線では動いていない。少し整える。状態が変わる。その変化に反応する。また少し整える。その繰り返しである。だとすると、「完結させる」は文明OS的で、「少し前へ進める」は進化OS的なのではないか。そんなことを思った。そして、この構造は家事だけではなかった。

妻とのセックスにも、似た変化が起きている。若いころを振り返ると、かなり自分の快楽が先にあったように思う。自分の欲求があり、行為があり、自分の快楽に至る。もちろん妻の存在や快楽もあったが、構造としては比較的直線的だった。ところが今は違う。妻が心地よくなる。その反応を私が感じる。それが私の快楽になる。
私の反応が、また妻に伝わる。妻→私→妻→私……。どちらの快楽が先で、どちらが後なのか、だんだん分からなくなる。家事も同じだ。私が少し動かす。妻がそれを受けて少し動かす。それを受けて私がまた動かす。二人の間を何かが循環している。ここで重要なのは、「相手のために自分が我慢する」という話ではないことだ。妻の快楽が私の快楽になる。妻が少し進めた家事によって私も動きやすくなる。私が少し整えた空間によって妻も動きやすくなる。相手への働きかけが自分に戻り、自分への働きかけがまた相手へ戻っていく。

どうも長く一緒に暮らしているうちに、夫婦というものの単位そのものが変わってきたような気がする。「私」と「妻」という二人の独立した人間が、それぞれ仕事を完結する。そこから、二人の間を生活が流れていく。そんな感じになってきた。考えてみれば、自然界もこちらに近い。雨が降る。植物が育つ。動物がそれを食べる。排泄物や死骸が土へ戻る。また植物が育つ。誰も「仕事を完了」していない。ただ、それぞれがそのときできることをして、次へ渡している。生命は完成を目指しているのではなく、循環を止めないようにしているのかもしれない。だとすれば、「完結」という概念そのものが、思考と文明が作った便利な編集方法なのだろう。

現実は本来、ずっと続いている。そこから思考が一部分を切り取り、「ここからここまで」と線を引く。そして文明が、それを「仕事」にする。開始。担当。期限。成果。完了。現役時代の私は、この世界に長くいた。そして卒サラ後、少しずつ別の世界へ戻ってきたのかもしれない。何でも自分で完結させなくていい。今日、少し前へ進めればいい。誰かが続きをやってもいい。明日の自分が続きをやってもいい。そして、また少し前へ進める。

最近考えている「直線から循環へ」という変化は、お金や時間の使い方だけではなかった。家事にもある。夫婦関係にもある。セックスにもある。そして、おそらく生命そのものにもある。

文明は「完結」を求める。
生命は「循環」を続ける。

そう考えると、これからの人生で大切なのは、何かを次々と完成させることではないのかもしれない。自分の身体を少し整える。家を少し整える。妻との関係を少し整える。今日という一日を少し整える。そして次へ渡す。

完結しなくていい。
少し前へ進めればいい。

そのくらいが、生命体としてはちょうどいいのかもしれない。

【今日の1日】5時起床。家事一般。新聞+サイト運営。白湯+オイルうがい+ピラティス。朝食。留守期間対応。昼食。買物。ピラティス-喫茶-買物。夕食。阪神タイガース観戦。LINEチャット多数。就寝。(一言) 

【INPUT】(日経新聞) (WSJ) (YouTube)(読書)「卒サラ@還暦 物語― 人間の設計思想を再発見する物語」ドラフト

【OUTPUT】マンダラチャート維持

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