卒サラして、間もなく4年間が経過する。振り返ってみると、この4年間、私は何をしていたのだろう。
会社を辞めた直後は、「これから何をするか」という問いをどこかで持っていた。仕事をしていないのだから、新しい活動を始める、趣味を増やす、何か成果を出す。そんな発想で考えがちだった。ところが過ぎ去った4年間を棚卸ししてみると、実際にやってきたことは少し違っていた。
箱根峠にある家と新中野の家を整えた。子供達とは、親が前に立つでも後ろから押すでもなく、それぞれの人生と並走するような関係になってきた。墓・仏壇・貸金庫を整えた。情報のインプット。アウトプットの環境を整えた。家計のBSを整理し、これから先のお金の流れを見えるようにした。運動や医療との付き合い方を整えた。会社を離れても人とのつながりが途切れないよう、人的交流も少しずつ組み直してきた。そして最近では、考えたことを文章にして外へ出す、知的アウトプットの体制もできつつある。睡眠、食事、運動、午前と午後の使い分けなど、生活のリズムもかなり定まってきた。
こうして並べてみると、一見バラバラに見える。しかし「生活OS」という切り口を使うと、かなりすっきり整理できる。私が生活OSと呼んでいるものの中心には、身体・時間・空間・関係の四つがある。身体OSには、運動や医療の習慣がある。時間OSには、睡眠を中心とした一日の生活リズムがある。空間OSには、東京と箱根という二つの暮らしの場がある。関係OSには、妻、子供達、友人や知人との付き合い方がある。どれも「何を達成するか」という話ではない。毎日をどのような状態で生きるかを支える仕組みである。
そして、この四つの生活OSを支える基盤も整えてきた。経済基盤としての家計BS。情報基盤としての情報環境。さらに墓など、過去から未来へ世代をつなぐ継承基盤。そう考えると、卒サラ後の4年間にやっていたことの正体が見えてくる。経済基盤、情報基盤、継承基盤。
私は、新しい人生の「アプリ」を次々と探していたのではなかった。その前に、OSとインフラ・基盤を入れ替えていたのである。会社員時代には、会社という巨大なシステムが生活のかなりの部分を(必ずしも自覚していいなかったが)支えてくれていた。毎朝起きる理由がある。行く場所がある。人に会う。情報が入ってくる。仕事をする。成果を求められる。給料が振り込まれる。一年の時間割まで、かなりの部分が会社によって決められている。会社は仕事をする場所であると同時に、生活を動かす巨大なOSでもあったのだと思う。
卒サラすると、それが突然なくなる。自由になったようでいて、実は生活を動かしていた基本構造まで失われる。だから必要だったのは、会社に代わる「次の仕事」を見つけることだけではなかった。会社に預けていた生活の仕組みを、自分の手元に取り戻すことだった。私の場合、それに4年間ほどかかったということなのだろう。
興味深いのは、この作業の多くが直線的ではないことである。家を整えて終わり、身体を整えて終わり、人間関係を整えて終わり、ではない。暮らす。食べる。眠る。身体を動かす。人と会う。考える。書く。休む。そして翌日、また暮らす。そこにはゴールがない。あるのは循環である。
会社員時代には、目標、成果、評価、昇進、収入といった「前へ進む直線」が生活の中心にあった。卒サラ後の4年間、私は知らず知らずのうちに、その直線から降りて、生活という循環がうまく回るための仕組みをつくっていたのかもしれない。
そう考えると、最近になって執筆が始まったことも面白い。執筆そのものは生活OSではない。整ったOSの上で動く「アプリ」のようなものだ。料理も、ゴルフも、旅行も、人との交流も同じだろう。OSが不安定なら、アプリをたくさん立ち上げても疲れてしまう。逆に、身体・時間・空間・関係がある程度整い、経済や情報の基盤も安定していれば、その日の状態に応じて、いろいろなアプリを動かせる。
やりたくなければ、動かさなくてもいい。この違いは大きい。卒サラ後、「何をする人になるか」を決めなくてはいけないような気がしていた。しかし今は少し違って見える。先に必要だったのは、何をするかではなく、どういう状態で暮らせる仕組みをつくるか。だったのではないか。そして、その仕組みがかなり整ったところで、自然に「今日は何が面白そうだろう」が出てくる。
卒サラ後の4年間は、空白期間でも準備期間でもなかった。会社という直線的なシステムから降りて、生命体としての循環的な生活へ戻るための、生活OSの全面改修期間だった。そう考えると、4年間という時間も、それほど長くはなかったように思えてくる。
【今日の1日】5時起床。家事一般。新聞+サイト運営。白湯+オイルうがい+ピラティス。朝食。ルンバ。昼食。ルンバ。移動準備。買物。阪神タイガース観戦。新中野-箱根峠。就寝。(一言)
【INPUT】(日経新聞) (WSJ) (YouTube)(読書)「卒サラ@還暦 物語― 人間の設計思想を再発見する物語」ドラフト
【OUTPUT】マンダラチャート維持
