人間は、いつから「今ここ」に戻る必要が生まれたのか
最近、「今ここに戻る」という言葉が気になっている。
ヨガをしているとき。
運動しているとき。
自然の中を歩いているとき。
頭の中を走り回っていた思考が静かになり、身体がいる場所へ意識が戻ってくる。しかし、ふと思った。そもそも人間は、いつから意識的に「今ここ」に戻る必要が生まれたのだろう。
昔の人間は、放っておいても現実に戻された
狩猟採集生活をしていた人間にも、もちろん思考はあった。過去を思い出し、獲物の動きを予測し、明日の行動を考えただろう。しかし、目の前の現実から長時間離れていることは難しかったはずだ。
天候が変わる。
獲物が動く。
危険な動物がいる。
腹が減る。
寒くなる。
仲間の表情が変わる。
生きるためには、目の前の現実を絶えず受け取らなければならない。いわば、現実のほうから、人間を「今ここ」に引き戻していた。
文明は、巨大な「地図」をつくった
ところが、人間は文明をつくった。農耕が始まり、定住し、土地を所有し、収穫を蓄える。すると、「今ここ」には存在しないものを扱う必要が増えていく。
来年の収穫。
土地の境界。
誰が誰に何を貸したか。
税をどれだけ納めるか。
さらに文字が生まれ、貨幣が生まれ、法律が生まれる。
これらはどれも驚くべき発明だ。人間は、目の前に存在する現実だけでなく、記号や概念を使って巨大な社会を運営できるようになった。私は最近、頭の中で編集された現実の表現を「地図」と呼んでいる。そう考えると、文明とは、人間一人ひとりの頭の中にあった地図を、外部化し、共有し、巨大化してきた営みとも見えてくる。
やがて、人間は地図の中で暮らすようになった
文明が進むにつれて、地図はさらに精密になった。時計。暦。学校。会社。契約。国家。市場。金融。私たちは、自然そのものだけを見て暮らしているわけではない。「9時から会議」「今月の売上」「来年の予算」「老後の資金」といった、頭の中につくられた時間や数字や概念の世界を生きている。
身体は常に「今ここ」にいる。しかし思考は、昨日へ行き、来週へ行き、10年後へ行く。文明とは、人間の「今ここ以外を扱う能力」を飛躍的に拡張してきたものなのかもしれない。
そして、デジタル社会がやってきた
スマートフォンを開けば、その傾向はさらに強くなる。ニュースを読む。メールを返す。SNSを見る。動画を見る。仕事をする。遠くの人と話す。身体は椅子に座っているだけなのに、思考は世界中を走り回る。しかも、かつてのように現実が強制的に連れ戻してくれるとは限らない。
雨が降っても建物の中にいる。
暗くなっても照明がつく。
食べ物はいつでも手に入る。
画面の中には情報が無限に流れてくる。
ついには、人間は、意識して戻ろうとしなければ、かなり長い時間「地図」の中にいられるようになった。ここまで来て、「今ここに戻る」という行為が、以前とは違う意味を持ち始めたのではないだろうか。
文明は「戻る技術」も生み出した
一方で興味深いことがある。文明の歴史の中では、瞑想やヨガなど、思考から少し距離を置き、身体や感覚へ注意を戻す実践も育ってきた。もちろん、文明が発達したから瞑想が生まれた、と単純に言うことはできない。それでも、地図を巨大化させる文明の中から、地図から離れる方法も生まれてきたと考えると面白い。そして現代では、瞑想、ヨガ、散歩、運動、自然の中で過ごすこと、デジタルデトックスなどが、あらためて注目されている。私自身、ヨガや運動をしていると、「考えるのをやめよう」と努力しなくても、自然に身体へ戻っていく感覚がある。身体を動かすことには、地図から顔を上げる働きがあるのかもしれない。
文明を捨てる必要はない
だからといって、地図が悪いわけではない。地図があったから、人間は未来を考え、協力し、巨大な文明をつくることができた。問題は、地図を持つことではない。地図の中にいることを忘れてしまうことなのだろう。思考は過去にも未来にも行ける。身体は「今ここ」から一歩も動かない。文明が地図を巨大化させるほど、この二つの距離は広がっていく。だから現代人には、ときどき意識的に地図から顔を上げる時間が必要になる。
歩く。
身体を動かす。
呼吸する。
自然を見る。
誰かの顔を見る。
食べる。
そこには、概念になる前の現実がある。考えてみれば、人類は不思議なところまで来た。かつては、現実が人間を「今ここ」に引き戻してくれた。いまは、人間のほうから意識して現実へ戻る必要がある。それは文明が間違っていたからではない。むしろ、文明があまりにうまく「地図」をつくりすぎたからなのかもしれない。
【今日の1日】晴。5時起床。家事一般。サイト運営。オイルうがい+白湯+ピラティス。朝食。歯医者-散歩-スタバ。昼食。執筆。夕食。阪神タイガース観戦。執筆。就寝。(一言)
【INPUT】(日経新聞) (WSJ) (YouTube)(読書)「卒サラ@還暦 物語― 人間の設計思想を再発見する物語」ドラフト
【OUTPUT】マンダラチャート維持
