最近、こんなことを思う。
人は、自分のためだけには、案外動かない。
ところが、人のためなら動ける。
もちろん、いつもそうだという話ではない。ただ、自分の日常を振り返ってみると、この傾向はかなり強いように思う。自分ひとりなら、食事は適当でもいい。しかし、誰かに食べてもらうとなれば料理する。自分ひとりなら、多少部屋が散らかっていても困らない。
しかし、人が来るとなれば片づける。ひとりなら、「今日は散歩しなくてもいいか」となる。しかし、誰かと約束していれば出かける。
仕事もそうだった。自分だけで決めた締切より、「相手が待っている」と思った締切のほうが圧倒的に強い。こう考えると、これは「怠け」の問題ではないのかもしれない。むしろ、人間という生命体が、そもそも単独で生きるようにはできていないことの表れではないだろうか。
「意志」より「関係」が人を動かす
私は最近、人は意志で動くというより、状態によって動くと考えるようになった。「運動しよう」「料理しよう」「片づけよう」と自分に命令する。これは、自分 → 意志 → 行動というルートである。
しかし、「人のため」になると少し違う。誰かが待っている。誰かが喜ぶ。誰かに頼まれている。誰かと一緒にやる。すると、不思議と身体が動く。こちらは、他者との関係 → 状態が変わる → 身体が動くというルートなのではないか。意志の力を強くしたわけではない。「関係」が、自分を動きやすい状態に変えているのである。
「人のため」が自分に戻ってくる
さらに面白いことがある。人のために動いたことは、結局、自分にも戻ってくる。誰かのために料理する→ 自分もおいしく食べる。人を招く→ 家がきれいになる。家族を気遣う→ 自分にも居場所ができる。孫と遊ぶ→ 自分の身体も動く。誰かに必要とされる→ 自分の一日に方向が生まれる。ここには、自分 → 他者という一方向の矢印だけがあるのではない。自分 → 他者 → 自分 → 他者……という循環が生まれている。
だから、自分のために生きようとするより、誰かとの間に自分を置いたほうが、結果として自分もよく生きられる。そんな逆説があるように思う。
サラリーマンを辞めて失ったもの
この視点から考えると、卒サラ後の生活も違って見えてくる。会社員時代には、会社という組織が大量の「他者」を供給してくれていた。顧客がいる。上司がいる。同僚がいる。部下がいる。会議がある。締切がある。面倒なことも多かった。しかし同時に、それらが毎朝、自分を動かしてくれていた。「今日はやる気があるだろうか」などと考えなくてもよかった。誰かが待っているから会社へ行く。
会議があるから資料を作る。締切があるから仕事を終える。組織は、人を拘束する装置であると同時に、人を動かす関係を自動的に供給する装置でもあったのだ。
卒サラすると、その装置がなくなる。自由になる。ところが同時に、自分を動かしていた大量の「関係」もなくなる。ここは意外に重要なのではないか。
老後に必要なのは「強い意志」ではない
だから、老後を考えるとき、「毎日規則正しく生活しよう」「運動を続けよう」「趣味を持とう」「社会との接点を持とう」と、自分の意志だけに頼る設計には限界があるのかもしれない。もっと自然なのは、自分が誰かのために動きたくなる関係を、生活の中に残しておくこと。夫婦でもいい。子どもでもいい。孫でもいい。友人でもいい。地域でもいい。仕事でも、ボランティアでも、誰かを家に招くことでもいい。大切なのは、「人の役に立たなければならない」と自分を追い込むことではない。そうではなく、自分と世界との間に、自然に身体が動き出す関係を置いておく。それが、年齢を重ねてからの生活設計ではかなり重要なのではないだろうか。
人間は「自分のため」だけにはできていない
人間は長い間、集団の中で生きてきた。誰かのために食料を運ぶ。
子どもを育てる。仲間を助ける。助けてもらう。そんな相互依存の中で生き延びてきた。だとすれば、「自分のためだけでは、なぜか動けない」という感覚は、欠点ではないのかもしれない。むしろ、人間という生命体の設計思想に近いのではないか。自分を強く律するより、誰と生きるか。誰を気にかけるか。誰に気にかけてもらうか。その「関係」を整える。身体・時間・空間と並んで、関係もまた生活OSの一部である。そして関係OSが整えば、人はそれほど自分を叱咤激励しなくても動く。人は、自分のためだけには動きにくい。だからこそ、人と生きることで、自分も動ける。人生とは、もともとそういう循環としてできているのかもしれない。
【今日の1日】5時起床。家事一般。新聞+サイト運営。白湯+オイルうがい+ピラティス。朝食。移動準備。昼食。新中野-箱根峠。夕食。就寝。(一言)
【INPUT】(日経新聞) (WSJ) (YouTube)(読書)「卒サラ@還暦 物語― 人間の設計思想を再発見する物語」ドラフト
【OUTPUT】マンダラチャート維持
